10回100円

日常

 朝起きたら、枕元にあるミニテーブルの上に、100円玉が置いてあった。

 前夜、わたしと妻は焼き鳥屋で飲み、その後カラオケスナックで飲んで歌い、酩酊して店を出た頃には、まだ帰りの電車はあったが、わたしは、
「電車に乗る気はない!」
 と、豪語したらしく、タクシーで帰宅した。

 寝室で妻からは、二度三度と風呂に入るよう促されたが、底知れぬ睡魔に襲われていたわたしは、
「もう寝る」
 と、駄々をこねて、消灯命令が下されたら3秒で寝入ることができる自信を持って、布団の上であぐらをかいていたら、妻は諦めてわたしの下着と靴下を剥ぎ取り、何枚ものウェットティッシュで体と足を拭いてくれたが、わたしが、
「拭き方が丁寧でない!」
 と、クレームを入れたら、妻は、
「だったら、自分で拭きや!」
 と、言って、持っていたウェットティッシュをわたしの腹に投げつけ、わたしはそれをシカトして寝入ったのは覚えているのだが、テーブルに置かれた100円玉は、全く思い出すことができなかった。きっと、タクシー料金のお釣りだろうと、思うくらいだった。

 わたしが妻に、
「この100円なに?」
 と、聞くと、妻は、
「覚えてないの!?」
 と、少々驚いた表情をして言った。

 妻の話によると、わたしの体と足を拭いた後、パンツを履き替えてもらおうと、わたしに「パンツ脱ぎや」と、言ったら、わたしは「いやだ」と、拒否したそうだ。

 我が家では毎朝妻が洗濯をする。通常だったら、夜に入浴するときに洗面所で脱衣物を洗濯かごに入れ、翌朝それを洗濯するのだが、この夜は睡魔に敗れたわたしが風呂に入らないと言ったばかりに、妻としてはわたしが寝る前に履き替えてもらいたかったようだ。

 そして、妻が再度わたしにパンツを履き替えるように言ったら、わたしは、
「脱いで欲しかったら、じゅうえん払え」
 と、言い出したそうだ。子どもが、教えて欲しかったら10円払えと、言っているのと何ら変わりがない。

 しかし、妻も妻で、わたしの子どもじみた交換条件に呆れて、もうこの人の相手はできないと諦めることはしなかったようだ。

 わたしが言い放った「じゅうえん払え」にカチンと反応し、気っ風良く、小銭入れから100円玉を取り出して、
「10回分ここに置いたで!さぁ、脱ぎや!!」
 と、ミニテーブルの上に100円玉を威勢よく置き、真っ向勝負をしてきたとのこと。夫婦揃って子どもか?

 結果、わたしはパンツを履き替えて寝たようだが、この話しを妻から聞かされたとき、幼児性が抜けきらない自分に苦笑いした。
(-。-)y-゜゜゜