ビル階段の怪

心霊・夢現

 わたしは、臆病なくせに心霊というものに興味があり、霊の存在を信じてやまないのだが、肝心の霊にはお目にかかったことはただの一度もない。きっと、臆病なわたしを驚かせては気の毒だという霊のお気遣いなのだろう。

 もう、12年前になるが、わたしは、都内某所のソフトウェア会社で仕事をしたことがあった。そのビルは11階建てで、同社は2階に管理部、営業部、開発部を置き、4階にも開発部があり、わたしは4階で仕事をしていた。

 ときどき、2階の開発部に用事があるときは、エレベーターは使わずにビル内の階段で往復をしていた。そのほうが早いからだ。何度目かの階段での移動中のことだった。4階から2階へ下る途中の3階と2階の踊り場を過ぎた辺りを下っていると、背後に人の気配を感じたのだ。誰かいるのかな? と、後ろを振り向いたが誰もいない。わたしは、気のせいだろうと、そのときは気には止めなかったのだが、その後、毎回同じ場所で背後に人の気配を感じるようになったのだ。

 なんだ、なんだ? こんな感覚ははじめてだった。あの “人の気配” はなんなんだろう? わたしは段々とその気配を意識するようになったのだが、こちらが意識をしたせいなのか、その後、その気配は、わたしが左脚、右脚と階段を下る歩調と合わせるようにして、後ろからわたしにぴったりと付いてくる感覚に変わったのだ。

 これって、霊!?

 そう思った途端、恐怖心が起きた。と、同時に、わたしの性格上且つ職業柄、兎に角この気配の原因を知りたい、それが霊であるのならはじめての体験になると思い、その気配の正体を確かることにしたのだが、その気配に大きな変化が起こったのである。

 その日はその感覚が起こる場所で一度立ち止まってみた。すると、すでにわたしの背後に人が立っている気配をひしひしと感じたのだ。そして、わたしが一歩一歩階段を踏みしめるようにしてゆっくりと下ると、その気配は、わたしの歩調を真似ながら、わたしの背中にべたーっと、へばりつくような、抱きつくようにして、後ろからついてきたのだ。

 これは霊だ!!

 ゾッとしましたね、霊の姿は見えていない。いや、後ろを振り向く勇気がない。ここにいてはいけない、得体の知らない恐怖がわたしを襲い、わたしは血の気が引く思いで、2階まで早足で下りた。そして、これ以降はエレベーターで移動することにしたが、後にも先にもはじめての体験だった。

 数年後、この会社は都内の別の場所に移転し、わたしはそこでも仕事をしたことがあった。メンバーにはこの会社の20代の男性社員がいて、彼とはときどき喫煙所で合い、そのうち話をするようになり、何の話がきっかけだったのか、彼は霊感が強いことを言ってきたのだ。

 わたしは、興味津々に彼の心霊体験を聞いていたが、まんざらウソでもなさそうだったので、
「ところで、御社がここに移転する前の場所は知ってる?」
 と、聞くと、
「知ってますよ。あそこでも働いていましたから」
 と、彼は答えた。

 それならば話が早い。わたしは階段での体験が霊の仕業であることの裏付けが欲しかったのだと思う。
「あそこのビルの階段に霊がいたよね」
 と、単刀直入に聞くと、
「あー、いましたよ。2階と3階の踊り場の上の方に」
 と、彼はなんの驚きもせずに、霊も見えていたことをさらっと答えたのだ。
「藤散人さんも見えましたか!」
「いや、見えなかったけど、感じたよ」
 と、言って、わたしは体験談を話しはじめた。

 話が終わると、
「藤散人さんも霊感あるんですね」
 と、言われた。そして、霊が見えた彼に、
「男の霊? 女の霊? どんな感じだった?」
 と、聞くと、
「男の人でしたよ、何歳くらいだろ、そんなに若くはなかったなぁ…白いワイシャツ着たサラリーマン風だったかなぁ」
 と、答えた。

 彼の話を聞き終わって、わたしは霊の存在に確信が持てたのだが、
「霊なんて、見えないほうがいいですよ」
 と、彼は微笑みながら言った。
(-。-)y-゜゜゜