社食不買運動

雑記

 20代前半、都内大手電気会社へ出向していた頃、昼食は社食を利用することが多かった。理由は安かったからだ。会社がどのくらい負担していたのかは知らないが、そば・うどん100円、カレーライス、ラーメン150円、日替わり定食は3種類あり、いずれもごはん・味噌汁・主菜・副菜の定食で、B定食150円、A定食200円、S定食は副菜がもう1品加わり250円だった。主菜は食中毒を警戒してか揚げ物が多かったが、会社周辺の飲食店の定食は600〜800円だったので、薄給だったわたしにとって社食はありがたく、A定食、カレーライスはよく食べたなぁ。

 余談だが、最近の社食は福利厚生のひとつとして値段を安くしているため、正社員以外の従業員は利用することができない企業もあるようだが、当時のこの会社の社食は部外者にも同じ料金で開放していた。

 出向3年目、この会社のソフトウェア開発拠点として埼玉県某所にシステム開発センター(以下、開発センター)が開設され、ソフトウェア開発の部署はそちらへ異動となり、わたしも移ることになった。

 それから半年か1年ほど経った頃だったろうか、この会社の台所事情からなのか、社食の料金が上がり、ラーメン、カレーライスが100円アップ、そば・うどん、定食は2倍に跳ね上がったのだ。当然社員らは大幅値上げに憤慨し、値上げ初日の昼休みは、まるで学校の講堂で全校集会を終えた生徒たちが、出入口からうじゃうじゃと溢れ出てくるように、私も含め何百人もの社員らが開発センターからぞろぞろと出てきて、中には「ふざけるな」と漏らす者もいたりして、突如 “社食不買運動” が起こったのである。

 しかし、都内のビジネス街でも昼食時はどの飲食店も混んでいるのに、ここは埼玉県某所で駅周辺もいまいちパッとしない所。言わずと知れた飲食店の少なさから、開発センター近くの飲食店は社員らで溢れ、お店の外まで列待ちしていたりして、駅周辺に行ってもお店を探すだけで一苦労し、漸くして昼食を取り、開発センターに戻った頃には昼休みの時間が残り少なくなっていたのを覚えている。

 サラリーマンにとって貴重な安息の昼休みを昼食だけで終えるなんて…。冷静になって考えてみると、値上げ後の社食の一番高いS定食でも500円で、どのメニューも社外の飲食店で食べるより安いのだ。また、社食なら20分もあれば、余裕で食べ終わり自席へ戻ることができ、残りの40分が自由時間になる。

 やっぱり、社食だな。わたしは2日目から早々に社食で食べることにしたが、値上げ前の社食のピーク時は、社食の外まで長蛇の列で並び、厨房カウンターで食べ物を受け取るまでに時間がかかり、一度に1000名余りが食事ができるフロア内のテーブルもほぼ満席だったが、この日はピーク時にも関わらず、さほど並ぶこともなく食べ物を受け取ることができ、フロア内のテーブルも空席が目立っていた。今日も相当数の社員らが社外へ食べに行ったようだ。

 さて、このような社食不買運動が起こると、社食を委託された会社は損失を被ったのだろうか。いや、社食を委託された会社は、1日何食分で見積もった金額を半期や年間で契約していたと思うので、料理が残ろうが残らまいが、痛くも痒くもなかったはずだ。もし、実食数で契約していたとしても、大手会社の社食を委託される会社なのだから零細企業ではないはず。一企業のこの程度の騒動で会社存亡の危機に陥るとは思えないし、損失は営業が企業の新規開拓で穴埋めすれば事足りることだ。

 反対に社食不買運動をされたこの会社は、その社員分を負担する羽目になり、感情的になった社員らは、社外の飲食店で社食より高い昼食を取った上に、食後の昼休みも少なくなる踏んだり蹴ったりの状況になったのだ。

 社食の料金値上げから1〜2週間が過ぎると、社食で食べる者が徐々に戻りだし、1か月も経つと社食は値上げ前と同じように混み合うようになり、社食不買運動は雪が熔けて消えるように終息したのである。
(-。-)y-゜゜゜

タイトルとURLをコピーしました